日本の風景を形作り、私たちの心の拠り所ともなっている伝統建築。その美しさと構造を根底で支えているのは、職人の卓越した技術と、それらを具現化するための「良質な木材」という資源です。竹中大工道具館が公開した講演会シリーズ「建造物木工×匠」では、現在直面している修理用材確保の切実な課題と、未来への展望が深く語られています。
本講演の中で特に心に響くのは、現代社会が見落としがちな文化財保護の本質を、静かに、しかし深く問い直す視点です。講師(鳥羽瀬公二(堂宮大工棟梁・日本伝統建築技術保存会会長))は、「文化財は観光のためにあるのではない」と、観光については肯定しつつも保存の本来のあり方を私たちに語りかけます。もちろん、美しい建築が人を惹きつけるのは喜ばしいことですが、それはあくまで結果として現れる一面に過ぎません。文化財建造物は、単なる経済的合理性や観光資源の物差しだけで測れるものではなく、そこには数百年という時を超えて受け継がれてきた「文化」や、その時代を生きた人々の切実な「祈り」が宿っています。
そして、こうした象徴が「無くなると日本が日本でなくなる」という言葉には、建築という存在が国家や個人のアイデンティティにいかに深く、そして繊細なバランスの上で根ざしているかが込められています。
現在、大規模な文化財修理に不可欠な大径木(巨木)の不足は、もはや「懸念」を超えた深刻な局面を迎えています。かつては地域社会の中に当たり前に存在した「森と建築の循環」が、効率を優先する現代の経済システムの中で少しずつ途切れてしまっているのです。真の保存とは、単に今ある建物の外観を繕うことではありません。数百年先の修理を見据えて、今この瞬間に材料を育む「森」の再生へ着手するという、気が遠くなるほど長く、慈しみ深い視点が欠かせないのです。
竹中大工道具館「○○×匠」講演会シリーズより「建造物木工×匠」講演会「伝統建築と森―技術継承のための修理用材確保における課題と展望―/Traditional Architecture and …(youtube/竹中大工道具館)
注目したいのは、建築を単体の「点」として消費するのではなく、素材の源流である森から、匠の手仕事、そして未来の修理計画までを一つの連綿とした「線」として捉える視点です。
動画を通じて、私たちが目にする歴史的建造物が、いかに多くの人々の意志と、長い時間の積み重ねの上に維持されているのかを再確認できます。建築に携わる方、あるいは日本の美徳を大切にしたいと願うすべての方にとって、ここには私たちが未来へつなぐべき道の大きなヒントが示されています。
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