建築家住宅の定義と市場規模
「建築家住宅」って聞くと、雑誌『新建築』に載っているような、独創的で美しい住宅を思い浮かべる人が多いと思います。でも実際の市場での割合はどのくらいだと思いますか?
矢野経済研究所の調査によると、新築住宅における建築家住宅の割合は全体のわずか4%。つまり100軒の新築住宅が建ったとして、そのうち建築家が独立して設計した住宅は4軒しかないんです。残りの96軒はハウスメーカーや工務店による住宅ということになります。ちなみにここでいう「建築家住宅」とは、建築士の資格を持つ独立した建築家が基本設計を行った住宅のこと。ハウスメーカーや工務店の社員建築士が設計した住宅は含まれません。2019年度の新設着工戸数で見ると、建築家住宅は約11,200戸。持家一戸建て(注文住宅)の着工数に占める割合は4%と推計されています。しかもこの数字は2016年度以降ほぼ横ばい。一定の需要はあるけれど、大きな拡大は見られていないのが現状です。
なぜ4%にとどまるのか:背景要因
じゃあ、なぜ建築家住宅は4%しかないのでしょうか。理由はいくつかあります。
コストの問題
建築家による設計はオーダーメイド性が高い分、設計料や施工費が割高になりがちです。ハウスメーカーのように大量生産でコストを抑える仕組みがないため、どうしても高く見えてしまうんですね。
時間と労力
建築家住宅は施主と建築家が打ち合わせを重ねながら設計を進めます。完成までに時間がかかるので、スピード感を求める人にはハードルが高い。
認知度の低さ
一般消費者にとって「建築家に依頼する」という選択肢はまだ浸透していません。多くの人はモデルハウスを見て「これにしよう」と決めるので、建築家住宅は選択肢にすら入らないことも多いんです。
供給体制の違い
ハウスメーカーは全国規模の営業網と広告宣伝力を持っています。一方で建築家は個人事務所や小規模組織が多く、情報発信力に差があるため、消費者に届きにくいのが現実です。
建築家住宅の価値と魅力
でも、少数派だからこそ建築家住宅には独自の魅力があります。
敷地条件に合わせた設計
狭小地や変形地でも柔軟に対応できるのは建築家住宅ならでは。ハウスメーカーの規格住宅では難しい敷地でも、建築家なら工夫して快適な空間を生み出せます。
ライフスタイルの反映
施主の趣味や生活習慣を反映した空間づくりが可能です。例えば音楽好きなら防音室を組み込んだり、アウトドア好きなら庭とリビングを一体化させたり。
デザイン性の高さ
素材や光の取り入れ方など、細部までこだわった設計が可能。建築家の感性が反映された住宅は、住む人にとって「作品」であり「居場所」になります。
資産価値
独自性のある住宅は中古市場でも一定の評価を受けやすい。量産型住宅と比べて「この家にしかない価値」が残るんです。
ハウスメーカー住宅との比較
ハウスメーカー住宅は、大量生産によるコスト削減や品質の安定が大きな強みです。全国規模で展開しているため、資材の調達や施工のプロセスが標準化されていて、価格を抑えながら一定の品質を維持できる仕組みが整っています。さらに、モデルハウスを通じて完成形を事前に確認できる安心感もあり、「この家に住んだらこうなる」というイメージを持ちやすいのが特徴です。購入者にとっては、完成後の姿が見えていることが心理的な安心につながり、選びやすさを後押ししています。
一方で建築家住宅は、まさに「唯一無二の設計」が最大の魅力です。施主のライフスタイルや敷地条件に合わせてゼロから設計されるため、世界に一つだけの住まいが生まれます。狭小地や変形地でも柔軟に対応できるのは建築家ならではの強みであり、趣味や生活習慣を反映した空間づくりも可能です。ただしその分、完成までのプロセスには不確実性が伴います。打ち合わせを重ねる時間が必要で、設計料や施工費も割高になりやすい。つまり「自分だけの家」を手に入れるためには、コストや時間の負担を覚悟する必要があるのです。
こうして見てみると、ハウスメーカー住宅と建築家住宅はまさに対照的な存在です。前者は量産型の安心感を提供し、後者はオーダーメイドの独自性を追求する。どちらが優れているというよりも、住宅市場の中でそれぞれが異なるニーズに応えている構造になっているわけです。効率性と安定を重視する人にはハウスメーカー住宅が合い、個性やこだわりを重視する人には建築家住宅が響く。両者の違いを理解することで、自分に合った住まいの選び方が見えてくるのです。
数字が教えてくれる現実
ここで面白いのは「数字が示す現実」です。建築雑誌に載るような建築家住宅は憧れの存在ですが、実際の市場では全体のわずか4%しかありません。つまり、ほとんどの人が選んでいるのはハウスメーカーや工務店による住宅なんです。
この数字を知っていると、住宅選びの見方が少し変わります。建築家住宅は確かに魅力的ですが、現実には「少数派」であることを理解しておくと、自分のライフスタイルや予算に合わせて冷静に選択できるようになります。
さらに、ハウスメーカーのモデルハウスを見学したり、施工現場を覗いてみると「建築家住宅以外の供給の仕組み」がよく分かります。これは住宅購入を考える一般の人にとっても役立つ知識で、建築雑学として覚えておくと面白いポイントです。
要は、建築家住宅は特別な選択肢だけれど、日常的に建てられている住宅の大半は別の仕組みで成り立っている。その両方を知っておくことで、住宅市場の全体像が見えてくるんですね。
教育的示唆:大学教育における位置づけ
そして興味深いのが教育の話。建築系大学の授業では、建築家住宅の市場規模や現実的な割合を数字として伝えることも重要だと筆者は考えています。学生は建築雑誌で紹介される住宅を理想としがちですが、実際にはハウスメーカーや工務店による住宅が圧倒的多数を占めています。
「建築家住宅は全体の4%」という事実を繰り返し示すことで、現実的なキャリア観や設計観を養うことができます。さらに、設計系の授業にハウスメーカーの工場見学や施工現場の視察を取り入れると、建築家住宅以外の住宅供給の実態を理解する機会になります。これは工学系や自然科学系の教育における「地道な日常業務の理解」と同じで、建築教育にも不可欠な視点だと考えています。
海外との比較
ちなみに欧米では建築家に依頼する文化が比較的根付いています。例えばドイツや北欧諸国では、住宅設計に建築家が関わる割合が日本より高いとされます。背景には「住宅は長期的に住み継ぐ資産」という意識が強く、設計に投資する文化があるためです。
日本では住宅の平均寿命が約30年と短く、建築家住宅への投資が限定的になりやすい点が違いとして挙げられます。つまり「住宅を資産として長く持つ文化」があるかどうかが、建築家住宅の割合に直結しているんですね。
今後の展望:建築家住宅は増えるのか
じゃあ、今後建築家住宅は増えるのでしょうか。近年は以下のような動きが見られます。
リノベーション需要の拡大
中古住宅を建築家が再設計するケースが増えています。新築だけでなくリノベーション市場で建築家の活躍が広がっています。
情報発信の強化
SNSや建築系ウェブメディアを通じて建築家の活動が広く知られるようになりました。これまで届きにくかった情報が一般消費者にも届くようになっています。
多様なライフスタイル
テレワークや二拠点居住など、新しい生活様式に対応するため建築家住宅が注目されています。規格住宅では対応しきれないニーズに応える存在です。
地域密着型の設計
地方自治体や地域工務店と連携し、土地の文化を活かした住宅づくりが進んでいます。地域性を反映した住宅は「場所性」を強く感じさせ、住民の誇りにもつながります。
まとめ
建築家住宅は新築住宅市場のわずか4%に過ぎません。でも、その存在は住宅文化の多様性を支える重要なピースなんです。ハウスメーカー住宅が「安心と効率」を提供する一方で、建築家住宅は「個性と物語」を生み出す。両者は対立するものではなく、むしろ補い合う関係にあるといえます。
ライフスタイルの変化や情報発信の広がりによって、建築家住宅が注目される機会は今後も一定程度ありそうです。テレワークや二拠点居住など新しい生活様式が広がる中で、規格住宅では対応しきれないニーズが出てくることもあるでしょう。そうした場面で「建築家と一緒につくる家」という選択肢が、従来よりも現実的に考えられるようになるかもしれません。
つまり、建築家住宅は単なる少数派ではなく、未来の住宅市場における「可能性の種」。4%という数字は小さいようでいて、そこには新しい暮らし方や都市のあり方を切り開く力が秘められています。雑誌に載るような華やかな事例だけでなく、日常に寄り添う建築家住宅が増えていけば、街並みやコミュニティの風景も少しずつ変わっていくでしょう。




コメント